私たちの研究室にようこそ

 私たちの研究室では、造血器腫瘍の病態基盤を遺伝子改変マウスによる疾患モデルを作製して研究しています。造血器腫瘍のなかでも骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞から発生するクローン性造血器腫瘍であり、造血不全を認める高齢者に好発するがんです。近年の大規模遺伝子変異解析によって、造血器腫瘍の多くでエピゲノム制御因子の変異が同定されました。エピゲノム制御は、主にDNAシトシンメチル化とヒストンの化学修飾によってなされ、正常造血幹細胞機能に不可欠です(IJH 2012)。近年、驚くべきことに健常高齢者に、MDSと同様の遺伝子変異をもつクローナル造血(いわゆる前がん状態)が起きていることが相次いで報告されました。

 こうした近年の造血器腫瘍の病態研究の流れのなかで、私(指田吾郎)はMDS病態基盤を研究してきました。米国留学を経て基礎研究に移ってからは、RUNX転写因子とエピジェネティック制御異常の機能的関連(Blood 2011; Zhang Y, et al. Blood 2012; Blood 2013)、ポリコーム遺伝子複合体の機能解析(Tanaka S, et al. Blood 2012; Science Signalling 2012)、そしてMDSでも変異を認めるRNAスプライシング因子Sf3b1の造血幹細胞機能を世界に先駆けて報告しました(Blood 2014)。

 さらに、エピゲノム制御因子であるヒストンH3K27メチル化酵素Ezh2およびDNA脱メチル化酵素Tet2欠損マウスを用いて、複数のMDSを始めとした造血器腫瘍モデルを用いて、その病態基盤を解明してきました(J Exp Med 2013; Nature Commun 2014; Mochizuki-Kashio M, et al. Blood 2015; Kameda T, et al. Blood 2015; Hasegawa N, et al. Leukemia 2017)。また、最近では治療困難な造血器腫瘍の病態解明と新規治療に関する基礎的な検証成果を複数報告しました(Sashida G, et al. Exp Med 2016; Wang C, et al. J Clin Invest 2018; Kubota S, et al. Nature Commun 2019)

 一方、MDS発症頻度からも分かるように、健常高齢者のクローナルな造血のごく一部がMDSを発症するのであり、MDS発生過程の仕組みは不明のままです。私たちの研究室では、がん発症過程において、加齢など生体内ネットワークの恒常性破綻を契機とした転写因子・エピゲノム制御機構異常を遺伝子改変マウスを用いて解析しています。

私たちの研究

研究課題:がん発生過程の分子基盤解明

 

造 血器腫瘍を始めとしたがんは、ゲノム変異とエピゲノム変異が複数蓄積した分子病態です。発生した前がん細胞・がん幹細胞が正常組織から排除されなかった場 合に癌を発症するが、がん幹細胞は急速に細胞分裂を繰り返してがんに進展するとは限らず、がん幹細胞は休止期(G0期)にも存在して、従来の細胞周期依存 的な抗癌剤には抵抗性です。

  MDSは血球の分化異常と機能障害による造血不全を来たし、一部が急性骨髄性白血病(MDS/AML)へ移行する治療困難な疾患群です。MDSの病源とな るMDS幹細胞の存在は、ヒトMDS細胞に加えて患者由来の間葉系細胞を併用した免疫不全マウスへの異種移植実験によって最近証明されました。

  興味深いことに、MDSはクローナルな造血を示すがんですが、MDS幹細胞の増殖活性は一般的に亢進していません。こうしたMDS幹細胞が生体内で正常幹 細胞を排除してMDSを発症する仕組みは、MDS病態を再現するモデルマウスの確立が困難であったため多くが不明のままでした。近年のゲノムワイドな遺伝 子解析によって、従来知られていたRUNX1などの転写因子やRASシグナル伝達関連因子の変異に加えて、TET2、DNMT3A、EZH2、ASXL1 などエピゲノム制御遺伝子の変異が次々と同定され、エピジェネティック制御機構の破綻がMDS幹細胞の発生・維持に重要であることが明らかになっていま す。

 私たちの研究室はがん生物学の進展に貢献するために、疾患モデルマウスを用いてMDS(また白血病)幹細胞の発生と病態進展について、以下のような研究プロジェクトを展開しています。

#課題1 転写因子・エピゲノム制御因子による白血病幹細胞発生と病態進展機序の解明

 

#課題2 加齢・感染ストレスによる造血器腫瘍発症の分子基盤の解明

 

#課題3 染色体数的異常による骨髄異形成症候群・白血病の発症機構の解明

募集

大学院生募集:

がん・造血器腫瘍の基礎研究に意欲と興味のある医師(初期研修終了後、博士課程希望者)また大学院生(修士・博士課程希望者)を歓迎します*

 

*血液内科に限らず、がん基礎研究に意欲のあるPhDまたはMDの方を歓迎します(個別に相談に応じますので連絡してください)

 

私とポスドク研究員、経験豊富な研究補佐員で、基礎研究に不可欠な論理的思考の構築を第一として、一般実験手技、マウス生体解析、シングルセル遺伝子発現・シークエンス解析などを始めに指導していきます。また、同施設内の造血研究で世界をリードする須田研究室、滝澤研究室の皆さんと協力して研究していける素晴らしい環境です。私たちの論文などをみて興味がある方は、まずはメールで連絡をください。

 

指田吾郎

特別招聘教授

住所:熊本市中央区本荘2-2-1 国際先端医学研究拠点機構 白血病転写制御研究室

Email: sashidag(at)kumamoto-u.ac.jp